大判例

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東京高等裁判所 平成6年(ネ)736号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  東京地方裁判所が同庁平成四年(ケ)第九七八号不動産競売事件につき、平成五年七月七日作成した原判決別紙配当表の「交付額内訳」の「現金」の欄のうち、被控訴人に対する現金交付額が二七四万三二〇〇円とあるのを零円に、控訴人(市川税務署)に対する現金交付額が八五万三〇〇〇円とあるのを三五九万六二〇〇円に、それぞれ変更する。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

本件の事案の概要は、次に記載するほか、原判決記載のとおりである。

(控訴人の当審における主張)

交付要求書の提出義務は、民事執行法には規定がなく、国税徴収法八二条一項に規定されており、また、その記載事項及び書式についても、同法施行令三六条一項、同法施行規則三条(別紙第七号書式)に規定されており、民事執行規則二六条の規定は適用されない。そこで、交付要求書の記載内容及び方式については、国税徴収の法制及び実務の観点からこれを考えることとなり、これいかんによっては、執行裁判所が、競売事件が無剰余執行となることによって取り消すべきか否かあるいは過剰執行として一部を取り消すべきか否か等を判断することが困難となることが生じたとしても、これは法自体が予定しているところであって、やむを得ないところである。

そして、国税徴収の法制及び実務の観点から本件をみると、納税者の納付額が本税の額に満たない場合には、納付した額はまず本税の支払に充てられたものとされ、その時点までの延滞税に見合う額については後回しにされ、延滞税の額は本税が完納されない限り、変動するものであり、本税が完納となった時点において計算され、その後端数処理をすることによって最終的に具体的な金額が定まるのであるから、このような場合には、交付要求時点において本税に係る延滞税の具体的金額を交付要求書に記載することは不可能であり、また、これにつき延滞税の仮の計算額や本税の納付額の推移を記載することも求められていないのであり、このことを考慮して、前記別紙第七号書式においては「法律による金額・要す」との記載方法が定められているところである。したがって、本件の場合においては、交付要求時における本税の額と「法律による金額・要す」と記載すれば足りるものであり、これによって、交付要求時において残存するすべての本税の額及び延滞税の額の交付要求をしているものと解すべきであって、この額を考慮しないで作成された本件配当表は違法である。

なお、交付要求書に延滞税の額の仮の計算額や交付要求にかかる本税の未納額の推移を記載することも考えられないではないが、これらの額はその後減額されることもあり、民事執行手続で剰余の有無や超過売却該当の有無の判断資料とするためにはなお不十分なものとならざるを得ないばかりか、かえって、その記載によって判断を誤らせることになることも考えられる。そして、民事執行法五〇条二項は、届出に係る債権の元本の額に変更があったときは、債権者にその届出義務を課しているが、これは租税債権には適用されず、他の法令においてもこれが課されていない。

第三  争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は失当であると判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決説示のとおりである。

(控訴人の当審における主張について)

交付要求の根拠及び交付要求書の記載事項については、控訴人が主張するように、国税徴収法及び同法施行令において規定されており、これについては民事執行法の適用あるいは類推適用を受けないことはそのとおりであるが、その解釈につき民事執行の手続に支障を来すものであったとしてもやむを得ないとする見解は、到底採用することができない。

法は、民事執行と滞納処分という二つの強制換価手続を設け、それぞれの特性を尊重しながら、基本的には共通する考え方をもって手続を統一し、かつ、相互の手続の調整をしている(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律参照)。交付要求は、まさに相互の手続の調整の機能を担うものであり、交付要求に関する法令の規定は、右の趣旨からして強制換価を進める民事執行手続が円滑に遂行されるように解釈すべきものである。

ところで、国税徴収法施行令三六条一項二号は、交付要求書には「交付要求に係る国税の年度、税目、納期限及び金額」を記載しなければならないと規定している。このように金額を記載すべきものとする施行令の趣旨は、民事執行を主宰する執行裁判所及び民事執行により債権の回収を図ろうとする債権者に、交付要求のある租税債権の総額がどのような金額となるかの見通しを与え、執行裁判所及び債権者がとるべき行動の判断資料とするところにあり、手続の調整の意義はまさにこの点にある。したがって、交付要求書に金額が記載されているかどうかは、その記載によって上記の見通しが得られるか否かによって判定されなければならない。そうすると、国税徴収法施行規則三条により定められている別紙第七号書式に滞納税額として「法律による金額・要す」とされているのも、このような記載によっても滞納税額の計算が可能となるような一般的な場合を想定した一つの記載例にすぎないものと解されるのであって、このような記載のみでは上記の見通しを得ることのできない本件のような場合には、右の記載例にとらわれず、滞納税額の計算を可能ならしめる根拠となる数値を記載しなければならないものと解すべきである。

本件の場合、原判決別紙「延滞税額計算表」の本税額七五万四七〇〇円に対する平成四年三月一七日から年14.6パーセントの割合による延滞税額については、その終期が到来しないため最終的には確定しないが、それ以前に生じた延滞税額は計算上すべて確定しており、その具体的金額を記載することが可能であったのである。また、終期が到来しないため確定しない延滞税については、その本税の残額と税率及び始期さえ記載すれば将来の配当時期における額の見通しを得ることが可能となるのであって、このことは一般債権についての利息、損害金の計算の場合と何ら異なるところはない。なお、控訴人は端数処理をしなければ金額は確定しないと主張しているが、延滞税額は終期が定まれば計算上金額が確定するものであり、端数処理はあくまでも端数についてのもので大勢には影響がないから、これが最終的に定まらなくとも、交付要求のある租税債権の総額がどのような金額となるかの見通しを得ることができる性質のものであって、この点は右結論を左右するものではない。

以上のことを前提とすると、控訴人の交付要求書の記載をもってしては、本税額七五万四七〇〇円とこれに対する平成元年三月一六日から支払済みまで法定の利率による延滞税額のみを要求しているとしか解することができず、客観的にみても控訴人の主張するような金額であると理解することはできないというべきであって、このような判断のもとに作成された本件配当表は正当である。

なお、控訴人は、交付要求書提出後の債権額の変動について言及するが、交付要求書に記載すべき金額はその提出時のものをいうのであるから、控訴人の右主張は採用できない。

二  以上の次第で、控訴人の本件請求は理由がなく、これと同旨の原判決は正当であるので、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官淺生重機 裁判官山崎潮 裁判官杉山正士)

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